令和2年度おいしい福井県米を作るために!-第1回-

営農ニュース

坂井農場長からの営農アドバイス

 坂井基幹支店には、120年超の歴史を持つ試験栽培の圃場「坂井農場」があります。坂井農場で栽培している水稲の生育について長谷川農場長がアドバイスいたします。3回シリーズの1回目は田植え後の管理について公開します。

 

1.令和2年度の稲作りに向けて

2.4月、5月の気象状況

3.県下各地域の現在の生育状況について

4.今後の対策―水管理は稲の生育をコントロールする重要な作業―

5.病害虫の発生状況と対策

6.水田除草の対策で気を付けること

7.畦畔雑草の対策で気を付けること

8.アオミドロ等の緑藻類が発生中!

9.令和2年度の坂井農場の取り組み

 

長谷川彰農場長

長谷川彰農場長

1.令和2年度の稲作りに向けて「もう一度見直そう水管理、土づくり」

 本年は、新型コロナウイルスの拡大により大変な年となっています。日常生活の中で、マスクは健康な生活を守るうえで必要不可欠なものですが、過度な海外依存により一時期大変な状況となりました。今、この問題を食糧問題に置き換えたらどうでしょうか、TPPなどグローバリゼーションが進む中、今まさに、食の安全保障が求められる時代に入ったと思われます。

 

 元年産米の日本穀物検定協会が実施する食味ランキングの特Aの福井米の評価は、北陸地域では唯一いちほまれが特A、3年連続の特Aとなりましたが、コシヒカリは、特AからA、ハナエチゼンはAからA´と残念な結果になりました。 米の消費減退に加え、米政策の大きな転換により産地間競争が激化するなか、各地域では、新品種の育成や業務用の多収品種など多様な取り組みがされています。

 

 今後は不順な天候に対応し、初期分げつの確保と適期中干しで遅発分げつを抑え、穂揃いの良い草姿を目指しましょう。気象変動に左右されない稲作り、水管理・土づくりになどに気を配り、昨年以上の収量・品質を目指し、県域JAとして頑張りたいと考えています。

 

今年は高密度に挑戦します。

今年は高密度に挑戦します。

2.4月、5月の気象状況

○4月……高気圧と低気圧が交互に通過し天気は数日の周期で変わりました。気温は寒気の影響により平年を下回る日が多くなりました。

平均気温(11.2度)は、平年(12.9度)よりかなり低く、降水量は多め(平年比134%)、日照時間は平年並み(105%)となりました。特に、4月下旬の平均気温は、平年と比べマイナス3.1度とかなり低くなりました。

 

○5月上旬……高気圧に覆われ晴れた日が多くなりましたが、気圧の谷や湿った空気の影響で曇りや雨の日もありました。

平均気温(18.2度)は、平年(16.8度)より高く、降水量は少なめ(47%)、日照時間は(平年比93%)は平年並みとなりました。

 

○5月中旬……高気圧に覆われ晴れた日もありましたが、気圧の谷や湿った空気の影響で曇りや雨の日もありました。

平均気温(18.3度)は、平年(17.3度)と比べ高く、降水量(58%)、日照時間(平年比92%)は平年並みとなりました。5月18~21日は肌寒い日が続きました。

 

この日はコシヒカリを植えました

この日はコシヒカリを植えました

3.県下各地域の現在の生育状況について

 ハナエチゼンをはじめいずれの品種も次のような生育と傾向があります。

・草丈は平年に比べやや短かかったが、根張りは良好

・全体的に曇りがちの日が多いためか、移植栽培では平年に比べ、葉色が薄く、茎数はやや少ない傾向

・昨年多発した藻類は、多発圃場もみられるが、全体的には温度、適度な雨などの影響も受け昨年に比べその発生は少ない傾向

 

早期に茎数を確保するため浅水管理を行い丈夫な茎をつくりましょう!

雑草が発生した場合は、早めに除草対策を行いましょう!

 

○県下各地域の生育調査結果(令和2年5月28日)

 

■農業試験場

ハナエチゼン(5/2)、コシヒカリ(5/20)、直播(5/12)、あきさかり(5/2)

草丈㎝ 茎数本/㎡

区分草丈(㎝)平年茎数(本/㎡)平年葉齢平年葉色平年
ハナ22.822.71542046.26.14.24.6
コシ17.617.577873.13.73.53.6
直播コシ
あき22.422.71682046.26.04.14.4

■坂井農場

ハナエチゼン(5/1)、コシヒカリ(5/15)、直播(5/7)、あきさかり(5/15)

区分草丈(㎝)平年茎数(本/㎡)平年葉齢平年葉色平年
ハナ29.824.51702077.26.14.65.0
コシ20.321.981944.54.23.63.9
直播コシ13.316.7761212.63.33.23.6
あき18.418.3104864.24.03.63.7

■県下の現地圃場平均

ハナエチゼン(4/28)、コシヒカリ(5/15)、直播(5/2)、あきさかり(5/12)

区分草丈(㎝)平年茎数(本/㎡)平年葉齢平年葉色平年
ハナ22.922.41541686.15.74.54.4
コシ18.819.077883.74.03.53.5
直播コシ18.717.11231102.93.33.53.8
あき20.720.71251145.35.13.74.2

4.今後の対策 ―水管理は稲の生育をコントロールする重要な作業―

・目標茎数を確保するまで、浅水管理に

・畦畔草刈り実践デー

昨年の暖冬の影響により、カメムシの多発が懸念されます。地域ぐるみの草刈りでカメムシの生息場所を減らしましょう。

1回目 6月20日(土)・21日(日)

2回目 7月4日(土)・5日(日)

品種今後の管理
コシヒカリ目標茎数(350~380本/㎡)を確保するまで水深2~3㎝の浅水管理。移植のあきさかりも同様。
直播コシヒカリ水深2~3㎝の浅水管理で分げつを促進する。直播栽培は移植に比べ、葉齢が小さく草丈も小さいうちに分げつが増加する性質がある。
ハナエチゼン・あきさかり等ハナエチゼンは分げつ期に入り葉色もやや濃い。浅水管理に留意し早期に茎を確保する。目標茎数ハナ400本/㎡ あき420本/㎡
病害虫等

・毎年ニカメイチュウが多発生している地域では、粒剤は6月3日頃、粉剤は6月8日から13日頃が防除適期。

・除草剤の施用にあたっては、漏水防止の確認。圃場を巡回し早めに散布すること。散布後7日間は落水やかけ流しはしない。

 

 

水管理は稲の生育とコントロールする重要な作業

 

水稲の生育と水管理(コシヒカリ)

生育時期水管理
活着期5月下旬苗の活着(新根が発生して養分や水を十分に吸収できる状態)には、気温よりも水温が大きく影響。一般的には、低温・強風→深水、晴天・高温→浅水管理(1㎝~3㎝)。また、除草剤の効果を安定させるためにも漏水防止に努める。
分げつ期6月上旬有効分げつ数を早期確保することがポイント。有効分げつ終止期まで、浅水管理によって水温を高く維持。生育中ワキがでたら落水管理を行う。
最高分げつ期6月下旬

穂にならない茎(無効分げつ)を抑えることが大事。目標茎数が確保されたら溝切・中干しを行う。

稲の品種と水管理

◎早生品種にはあまり強い中干しは行わない―成長速度、葉色を落とさない

◎倒伏しやすいコシヒカリは節間伸長まえから落水し生育制御―生育制御が重要

◎晩生品種は茎数過剰と葉の枯上りに注意―細植えや深水管理で草型安定

幼穂形成期7月中旬

幼穂形成期以降は、新しい根が出ない。根をいかに大事にするかがポイント。

溝切・中干しによる間断通水を行うこと。

出穂期以降8月初め

間断通水の目的

①土壌中の酸化状態を維持 

②根の老化、下葉枯れを防ぐ 

③光合成能力の向上

一括肥料の成分溶出を安定させるためにも、収穫直前までは土の表面が乾き始めたら水をいれる飽水管理(常に湿った状態)を行う。(入水→自然落水→乾く前に入水)

フェーンや台風の場合は深水管理を行い乳白米の発生防止に努める。

5.病害虫の発生状況と対策

病害虫発生状況等
葉いもち平年並みの見込み。補植用の置き苗は、早めに撤去すること。
ニカメイチュウ越冬成虫の発生は、平年に比べやや早く、昨年並みの見込み。
イネミズゾウムシ発生状況は、平年より少なく、前年並みの見込み。

6.水田除草の対策で気を付けること

・除草剤の効果を高めるため。漏水がないよう点検を行う。

・使用前に必ずラベルに記載してある「適用雑草と使用方法」等を確認する。ノビエ3葉期までとあったら2葉期ごろに散布するとより効果が期待できる。

・散布にあたっては、よく除草剤が拡散するよう5~6㎝程度の湛水状態に保ち田面を露出させない。散布後、7日間は落水やかけ流しはしない。この間、やむをえず自然落水により田面が露出した場合は、ゆるりと入水を行う。

・水持ちの悪い水田は、手間がかかるが粒剤の効果が安定的である。

・やむをえず雑草の取りこぼしがある場合は、雑草の種類に合わせ中期除草剤や後期除草剤の散布を行う。

 

薬剤の種類により、水管理(湛水散布、落水散布)が異なるので、使用基準をよく読み厳守してください。

草種農薬
ヒエ

クリンチャー1キロ粒剤(湛水散布)

ヒエクリーン1キロ粒剤(湛水散布)

ワンステージ1キロ粒剤(湛水散布) 

クリンチャーEW(落水散布)

トドメMF1キロ粒剤(湛水散布)

トドメMF乳剤(湛水又は落水散布)

広葉雑草

バサグラン粒剤

バサグラン液剤(落水散布)

ヒエ、広葉雑草

クリンチャーバスME液剤(落水散布)

ヒエクリーンバサグラン粒剤(浅水散布)

ワイドアタックSC(落水散布)

クサネムノミニー液剤(落水散布)

7.畦畔雑草の対策で気を付けること

除草剤は3つのタイプに区分されます。

区分主な除草剤
土壌処理剤カソロン等
茎葉処理剤プリグロックスL、ラウンドアップ、ザクサ、バスタ等
茎葉兼土壌処理剤カーメックス等

○ここに気を付けよう!

・土壌処理剤は、土壌が適度に湿っている時に効果が高くなります。

・茎葉処理剤は、雨の直前には散布しないようにしましょう。

・除草剤の散布時期は、降雨がないことが大前提ですが、「プリグロックスL」は、光合成を利用して雑草を枯らすので、夕方よりも早朝散布することがより効果的です。また、早朝時は、朝露により適度な湿り気があるので、より効果が高いです。逆に午後は蒸散が盛んになりますから、除草剤の吸収が低下する恐れがあります。

8.アオミドロ等の緑藻類が発生中!

 昨年は、アオミドロ等の緑藻類が多く発生しました。本年は、気象の影響もあり昨年に比べるとやや少ない状況ですが多発水田もみられます。多発生すると苗のなぎ倒しや水温の低下など生育抑制、除草剤も効かないなど懸念されます。効果的な対策を行いましょう。また、本年度松の効果についても観察しています。

 

多発生の要因

①地力が高い……土中の有機物やN、Pが多い場合

②水温が生育に適している……水温が10度を超えると増加、25度でピーク!

③日射量が多いと光合成が増加し発生大

対策

①落水し軽い田干しを行う。

②藻類に効果のある農薬を散布する(モゲトン)

松を植えると藻が発生しない!?

松を植えると藻が発生しない!?

9.令和2年度の坂井農場の取り組み

 坂井農場は1.2haの水田でいろんな試験を行っています。

①福井県の主要品種の生育が一目でわかります。(移植、直播)

②温暖化等に対応し、より効果的な肥料・農薬の試験を実施しています。

③省力・低コスト栽培技術として注目されている「高密度播種苗移植栽培技術」や肥料の溶出試験等にも本年度から新たに取り組んでいます。

皆様ぜひとも坂井農場にお立ち寄りください。

 

常に新しい取り組みに挑戦します(写真は肥料溶出試験)

常に新しい取り組みに挑戦します(写真は肥料溶出試験)