令和7年度 みんなに選ばれる福井米を目指して-第1回-

営農ニュース

JA 福井県坂井営農経済センターには、120年以上の歴史を誇る「坂井農場」があります。今回から3回 にわたり、坂井農場で水稲栽培を指導する由川農場長が、生育管理のポイントをお伝えします。第1回は、田 植え後の管理についてご紹介します。

1. 令和7年度の稲づくりについて 

2. 令和7年4月、5月の気象状況 

3. 福井県各地域の現在の生育状況について 

4. 今後の対策…水管理は稲の生育をコントロールする重要な作業 

5. 病害虫の発生状況と対策 

6. 除草剤散布時のポイントと注意事項 

7. アオミドロ・表層剥離対策について 

 

1.令和7年度の稲つくりについて

 令和7年に入り、米価の高騰が連日、新聞やテレビなどで報道されています。また小泉農相になり備蓄米の 放出による全体的な価格低減への期待感で、日増しに報道がヒートアップしています。ここ10年を振り返る と、米価の低迷により、私の周囲でも稲作をやめる農家が多く見られました。しかしながら、国から何か対策 が講じられたかと言うと特にありませんでした。そうした“ツケ”が今の混乱を引き起こしているのではない かと感じています。個人的には、適正な価格(再生産が継続できる米価)で安定することが、持続可能な稲作 のために望ましいと考えています。

 さて、今年も稲作の季節が始まりました。これからの米づくりにおいて重要なのは、消費者に選ばれる「安 全・安心な米づくり」であると考えます。JA 福井県では令和5年度より「みどりの認定制度」がスタートし、 環境への配慮、温室効果ガスの削減、プラスチック資材の使用削減など、持続可能な農業への取り組みを進めています。 

 今年3月に発表された福井米の食味ランキングでは、「いちほまれ」が2年連続で特A評価を受けた一方で、 「コシヒカリ」はA、「ハナエチゼン」はA’という結果となり、やや残念な印象も残りました。特に近年の 温暖化の影響は、米の食味や品質低下の大きな要因とされており、県農業試験場でも高温に強い品種の開発が進められています。

 令和7年度も、昨年並みの高温が予想されています。こうした気象変動に左右されにくい安定した米づくり が今後ますます求められます。夏場の水管理や、秋の土づくりなど、基本を大切にしながら、収量と品質の向 上を目指してまいりましょう。 

 

坂井農場の取り組み

 坂井農場は1.2ha の水田でいろんな試験を行っています。

① 福井県の主要品種(移植、直播)の生育が一目でわかります。

② 温暖化等に対応し、より効果的な肥料・農薬の試験 

③ 省力・低コスト栽培技術として、直播栽培実証試験 

④ 肥料のプラスチック問題に対応した、環境にやさしい脱プラ肥料試験など

皆様ぜひとも坂井農場にお立ち寄りください。

 

農場長コメント 

 令和7年7月5日(土) 8:00~ 坂井農場参観デーを開催します。

 農場の案内、および試験内容を説明いたします。ぜひお越しください。 

 同日、参観デー終了後、「坂井地区水田農業ハイグレード推進大会」が坂井営農経済センター3階で開催され ます。 

                                

令和7 年度坂井農場試験内容 

 ①気象対策(豊凶連絡)試験(県委託試験) 

 ②ハナエチゼン新肥料試験

 ③早生品種315栽培及び肥料比較試験 

 ④いちほまれ追肥試験 

 ⑤あきさかり新肥料試験

 ⑥いちほまれ直播基肥一発肥料実証試験 

 ⑦コシヒカリ直播栽培試験

 ⑧コシヒカリ特栽肥料・新肥料試験

 ⑨土壌改良資材等試験 

 ⑩水稲育苗箱施薬殺虫殺菌剤及び 種子処理用殺虫剤試験 

 ⑪移植除草剤試験

 ⑫直播除草剤試験 

        

2.令和7年4月、5月の気象状況【福井気象台より】 

○4月……期間の前半は、低気圧や湿った空気の影響を受け。曇りや雨の日が多くなりました。後半は高気圧 に覆われ晴れた日が多くなりましたが、雨や曇りの日もありました。また、期間を通し上空の寒気や温かく湿 った空気の影響で、大気の状態が不安定となり一時的に雷雨となった日もありました。

○5月上旬……高気圧や低気圧が交互に通過し、天気は周期的に変化しました。平均気温は、すべての地区で平年より低くなりました。降水量は、三国を除いて平年より多くからかなり多くなりました。日照時間は平年並みとなりました。

○5月中旬……気圧の谷や湿った空気の影響で曇りや雨となった日もありましたが、高気圧に覆われ晴れた日が多くなりました。平均気温は、全ての地区で平年よりかなり高くなりました。降水量については、全ての地 点では平年より少なくなりました。日照時間は、全ての地点で平年並みとなりました。

〇5月下旬……この期間は、高気圧に覆われ晴れた日もありましたが、上空の気圧の谷や前線の影響で曇りや雨の日が多くなりました。平均気温は、全ての地点でほぼ平年並みとなりました。降水量は、平年並み~平年 より少なくなりました。日照時間は、全ての地点で平年より少なくなりました。 

           

3.県下各地域の現在の生育状況について

 5月下旬の日照不足の影響等により、全体的に生育は平年並み~小さく、葉色も平年より淡い傾向です。6月中旬から下旬は、茎数が最も増加する時期なので、茎数の少ないところは浅水管理で茎数増加を促しましょ う。目標茎数を確保したハナエチゼン・いちほまれは、溝切り・中干しを開始しましょう。

○県下各地域の生育調査結果(令和7年6月4日)

■農業試験場(福井市寮町) 

ハナエチゼン(5/1)、コシヒカリ(5/20)、あきさかり(5/1)

区 分

草丈(㎝)

平 年

茎数(本/㎡) 平 年 葉 齢

 平 年 

 葉 色  平 年
 ハ  ナ

  31.1

  29.8

 562.6

461.4

8.6

8.2

4.5

4.8

 コ  シ

  25.7

26.1

  96.7

222.0

4.9

6.2

3.9

4.3

 あ  き 

  29.3

  29.2

 468.0

449.6

8.2

8.1

4.3

4.8

■坂井農場(坂井町上新庄) 

ハナエチゼン(5/1)、コシヒカリ(5/15)、直播(5/7)、あきさかり(5/15)

区 分

草丈(㎝)

平 年

茎数(本/㎡)

平 年

葉 齢

平 年

葉 色

平 年 

ハ  ナ

28.0

27.0

260.3

279.2

8.7

7.4

4.3

5.1

コ  シ

26.4

26.7

89.2

124.0

6.1

5.3

4.0

4.2

直播コシ

22.3

22.0

128.7

141.8

4.6

4.6

4.2

4.1

あ  き

26.4

21.9

92.8

122.6

6.3

5.0

4.6

4.0

■県下の現地圃場平均

ハナエチゼン(4/29)、コシヒカリ(5/16)、直播(5/3)、あきさかり(5/16)

 区  分

 草丈(㎝)

 平 年

 茎数(本/㎡)

 平 年

 葉 齢

 平 年

 葉 色

 平 年

 ハ  ナ

 28.4

 25.2

 234.3

 236.9

 7.3

 7.0

 4.4

 4.7

 コ  シ

 24.7

 25.2

 115.5

 127.6

 4.7

 5.2

 3.6

 3.9

 直播コシ

 22.2

 21.7

 113.7

 185.5

 4.7

 4.9

 3.6

 4.2

 あ  き

 21.2

 24.8

 94.3

 162.4

 4.6

 6.3

 3.8

 4.4

 

 

 

         

4.今後の対策…水管理は稲の生育をコントロールする重要な作業 

・目標茎数(おおよそ20本/株)を確保するまでは、浅水管理を基本としましょう。 

 浅水に保つことで、地温の確保と酸素供給が促進され、健全な分げつが進みます。

品   種

今後の管理

コシヒカリ

目標茎数(350~380 本/㎡)を確保するまで水深2~3 ㎝の浅水管理

直播コシヒカリ

水深 2~3 ㎝の浅水管理で分げつを促進する。直播栽培は移植に比べ、葉齢が小さく草丈も小さいうちに分げつが増加します。目標茎数300 本/㎡

ハナエチゼン・あきさかり等

分げつ期に入り葉色もやや濃いため、浅水管理に留意し早期に茎を確保する。 目標茎数ハナ400 本/㎡ あき420 本/㎡ 

 

・溝切り、中干しの実施 

目標茎数(おおよそ20本/株)を確保できたら、田干しや溝切りを行いましょう。その後は中干しの工程に移りますが、圃場の土壌の状態をよく観察し、ヒビ割れの程度に応じて、適切なタイミングで通水を行ってください。

 

      

5.病害虫の発生状況と対策 

坂井農場では、5月に入りニカメイチュウの飛来が、例年に比べて多く確認されています。特に、前年に発生が多かった圃場や、育苗時に箱剤を使用していない圃場では、十分な警戒が必要です。また、初期害虫による食害も多く見られており、早期の観察と対策が求められます。

・畦畔草刈り実践デー(県下一斉) 

 年々カメムシが多くなり被害が懸念されます。地域ぐるみの草刈りでカメムシの生息場所を減らしましょう。 

 1回目 6月21日(土)・22日(日) 

 2回目 7月5日(土)6日(日) 

〇県農試農作物病害虫発生予察予報(6月3日) 

病害虫

発生状況等 

葉いもち

平年並み、前年より多い。全般発生開始期は平年並みの 6 月 6 半旬。補植用の置き苗は、早めに除去し、土中に埋没すること。多発生の恐れのある圃場は、6 月10 日までに予防剤を施用する。

紋枯病

平年、前年より多い。中干しを行い、過剰分げつを抑えること。

ニカメイガ 

平年、前年より少ない。越冬成虫の発生は平年に比べ早い。常発地では必ず防除する。

イネミズゾウムシ 

発生状況は、平年より多く、前年より多い。

斑点米カメムシ

暖冬等で年々増加傾向にあり、特に小型のカスミカメムシ類の発生が多い傾向となっている。

坂井農場での二カメイチュウ誘殺状況(5/19から調査開始)

  発生は早まっており、農場では平年より捕殺数は多くなっています。

調査日

5/19~29

5/30~6/5

捕殺数

38

45

※前年比でやや多い。

 

ニカメイチュウの捕殺罠の設置

ニカメイチュウの捕殺罠の設置

白い蛾のようなものがニカメイチュウ

白い蛾のようなものがニカメイチュウ

6.除草剤散布時のポイントと注意事項 

・除草剤の効果を高めるために、事前に圃場の漏水箇所(排水口や畦畔まわり)を点検し、漏水がないかを確認しましょう。

・散布前には、必ず除草剤ラベルの「適用雑草」や「使用方法」を確認してください。たとえば「ノビエ3葉期まで」と記載さ 

   れている場合は、2葉期ごろの散布がより効果的です。

・除草剤の散布時には、5~6cm 程度の湛水状態を保ち、田面を露出させないようにしましょう。散布後は7日間、落水やかけ

   流しを避けることが重要です。やむを得ず自然落水などで田面が露出してしまった場合は、ゆっくりと入水を行い、水位を回復

   させてください。

・水持ちの悪い田んぼでは、手間はかかりますが粒剤を使うことで除草効果が安定します。

・雑草の取りこぼしが見られた場合は、雑草の種類に応じて中期・後期除草剤を使用しましょう。 

※除草剤の種類により、水管理方法(湛水散布か落水散布か)が異なります。使用前に必ず使用基準を確認し、 指示を厳守して

   ください。 

   適用する除草剤についての詳細は、JA 各支店または福井県農作物病虫害防除指針をご参照ください。    

 

7.アオミドロ・表層剥離対策について

近年、アオミドロなどの緑藻類が多く発生する水田が増えています。特に晴天が続き、気温が高くなる時期には、どの圃場でも多少なりとも発生が見られます。 これらが多発生すると、苗の倒伏や水温の低下を引き起こし、稲の生育を抑制する要因となるほか、除草剤の効果にも悪影響を及ぼす恐れがあります。 被害を防ぐためにも、効果的な対策の実施が重要です。

多発生の要因

①地力が高い圃場

  土壌中に有機物や窒素(N)、リン酸(P)が多いと、藻類の栄養源となりやすく発生しやすくなります。 

②水温が生育に適している

   水温が10℃を超えると発生が始まり、25℃付近でピークを迎えます。 

③日射量が多い

   光合成が活発になり、藻類の繁殖が加速します。

効果的な対策

①浅水管理を徹底する

   深水にせず、常に浅水を保つことで光の透過を抑え、藻類の増殖を抑制できます。 

②軽い田干しや新鮮な水の入れ替えを行う

   一時的な落水や入水により、藻類の生育環境を悪化させます。

③藻類に効果のある農薬の散布

   モゲトンなど、緑藻類に効果のある薬剤を使用することで、発生を抑えることができます(適応する藻類を確認し、使用基準を

   守って適切に散布してください)。

 

 

 

 

 

これにて第1回の坂井農場長アドバイスを終わります。第2回は7月末を予定しています。

これにて第1回の坂井農場長アドバイスを終わります。第2回は7月末を予定しています。